お菓子をくれなきゃ悪戯だ!
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


    5



人の視覚や聴覚といった感応力というのは、
野生の動物には劣るがそれでもなかなかの精度をしているもので。
自分ごとですいませんが、
退院したばかりの晩、
隣の部屋では
ちょっぴり耳の遠い母が随分な音量でテレビを見ていたにもかかわらず、
いつまでも さあさあという耳鳴りがしていて
何とも困ったもーりんだったり致します。
病院というところは基本静かな場所ではありますが、
それでも結構な広さですし、そこには相当数の人がいる。
消灯の後だって、様々な精密機器も稼働している、
エアコンだって大型ですから、静音タイプであれ多少は気流の音だって響きます。
遠いナースステーションからは、呼び出しのチャイムもかすかに聞こえる、
巡回の折の寝られない人への声かけの囁きだってしますし、
寝息やいびきも満ち満ちている訳で、
し〜んと静かでありながら、それでも結構な“環境音”はしていたようで。
二時間サスペンスの大詰め、
知られて仕舞ったんじゃあ仕方がないと詰め寄る悪漢から
ヒロインがきゃあきゃあ言って逃げ惑う正念場の物音以上に、
耳鳴りが気になったほど、
『ウチって何て静かだったの』と
ややこしい感慨に耽ってしまったもーりんだったワケでして。


  たっだいま〜〜♪




  ……………じゃあなくて。(まったくだ)


まだそう遠くまでは離れていない大広間からは、
生演奏の響きも、結構な数を収容していたお客たちのざわめきも、
司会のお兄さんがマイクを通して何やら語りかけているらしい
進行の様子だって届いちゃあいるのだが。
不思議なもので、もはや部外者となった身には、
単なる環境音でしかないそれらであり。

 「またまた このパターンですか。」

ドロップと見まごう大きさながら、
正真正銘、しかも結構な等級のダイヤモンドという大物。
単に持ち主を困らせてやろうという趣旨から隠しただけじゃあない。
特徴がありすぎて捌きにくいブツだというに、
それでも奪ってっての、どっかで換金して利を得ようという格好の泥棒が、
出入りの際のボディチェックされる間だけ預けて行ったという段取りの
格好の預かり先にされたらしい…というところまでを
鮮やかに推量してしまったお嬢様たち。
困った事態が転がり込んで来たもんだと、
どれほど困った事態かの 質や傾向といったレベルまでもを
冷静に正確に断じた上での“やれやれ”と。
まだ十代の、しかもいづれもやんごとなきお生まれお育ちという、
生粋のお嬢様がたとは思えぬ把握をなさっておいでの
こちらのお話では毎度お馴染み、
可憐でありながらも不思議と存在感あふるる3人の美少女たちが、
ホテルJ本館最上階バックヤード、
西リフトホールの片隅にて、
可愛らしいおでこを突き付け合うようにして
ごそごそと相談中でおいでであった…というところで、
いきなり“筆者退場”となってしまったのですが。
そんなホールへ遅ればせながら到着したリフトゲージには、
どうやら思わぬ搭乗者があったらしく……




     ◇◇



 「まったくよ、下手に奇を衒うからこういうことになるんだ。」

ドラマや映画じゃあるまいに、
第一、そういうところでお馴染みの手筈は
それだけ使い古されてるとどうして気づかぬ。
小理屈ばかりを並べて、綿密な計画だの作戦だのと
偉そうに準備をしていたその間も、人を体よくこき使っていたそのくせ、
いざ実行してみればこの有り様。
どんなに周到に構えた策でも計画でも、
例えば天候1つでどうとでもなし崩しにされるもの。
実体験も浅く、臨機応変とか応用とかいう経験値の袖斗もない連中だ、
山ほどの奇遇や思わぬ突発事態の割り込みに翻弄され、
そのたびごとに焦って選んだ行動が裏目裏目に出た挙句、
おたつき切っての進退極まったところでという最悪な段階で、
割れた尻をこっちへ預けて来やがって…と。

 「これっぽちの荒ごとさえ出来ねぇなら、
  最初から手ぇ出すなってんだ。」

それなりのスマートさとやらを発揮して、
現場からブツをくすねた側の実行班から最終的には泣きつかれ。
やれやれしょうがねぇな、その代わり代価は支払わねぇぞと、
ブツの回収という厄介な後始末に動き出したのが、
こちらはずんと場慣れしているらしき“受け取り側”の面々で。

 「いつもいつも帳尻合わせはこっちってどうよ。」
 「カナメの親父さんの安請け合いにも困ったもんだぜ。」
 「まま、現場担当の連中が追われる隙にブツは捌いちまうんだ。
  そこだけが旨みと諦めようぜ。」

一端のワル気取り、今世紀最高の知能犯だとでも思っていたか、
底の浅い今時の青二才連中が持ち込んだ窃盗計画の、
だがだが、結果は尻すぼみになった後片付け。
まんまと盗み出したそのまま、
同じホテル内で催されてたパーティーへと紛れ込み、
ブツを隠したその上で、
ボディチェックも無事に通過しての さて…と。
計画上では見事に回収出来てたはずの億単位の宝石が、
だのに どのバスケットにもないと判った。
あれあれ、3人ほどの女子高生たちが
予定外の行動取ってませんかというのへと気がついて、
どうしよ・どしよと真っ青になった腰抜けどもに打って代わり、

  たかだか小柄なお嬢ちゃんたちへと脅しをかけるだけ。
  そんなささやかな荒療治がどうして出来ないってのかねぇと

仕上げを引き継いだのだろう、
いかにも“この道ウン十年”という
肝の入った面構えのおじさんたちが7人ほど、
間接照明の下ではその色も覚束ぬ、
地味な作業着姿でどやどやと降り立って来た。
此処は宴への料理やお酒や、若しくは趣向を用意するためのバックヤード。
よって、客ほどドレスコードも厳しくはなく、
格好はどうであれ構わぬが、
仕事として何かを運び上げて来なけりゃならぬはず。
もしかして
会場で丁度キリのいいところとなったらしいビンゴ大会の、
カラーボールを幾つも収めた大掛かりなビンゴボックスを撤収しに来た
興業関係の会社の人達かしら…と思うたか。
小さな肩越し、あらという意外そうなお顔を見せつつも、
道を空けようとしてか、
ほっそりとしたその身を起こそうとした3人の少女らを把握したお歴々。
この子らが“面倒”の相手だなと見極めると、
やや視線を伏せることで会釈に紛らせてのそのまま、
傍らを通り過ぎるような素振りでつかつかと近寄ってゆき。
そこは見知らぬ殿方には遠慮が出るか、
すれ違いかかった刹那、も少し身を避けかけた微妙な所作を見逃さず、
腕を掴み取ってのねじ伏せん…としたはずが、

 「鬼は外っ!」

そのまま問題のカゴを取り上げられれば、
まずは重畳とした段取りだったはずなのに。
3つあった小さな籐籠はすんでのところで遠ざけられての、
そこから小さなお手々で掴み出された飴たちが、
もちょっと先の来年の歳時記、
そちらは春を呼ぶ晩の節季に行われる豆まきよろしく、
そおれっと投げつけられて来るではないか。

 「わわっ、何しやがるっ!」
 「あ、こら避けんな。どれかにブツが混ざってるかも知れねえ。」

飛んで来るものへは反射が働き、俊敏に避けてしまうほど、
こんなところへも荒ごと慣れしたおじさんたちだが、
今宵はそれをこそ回収しに来たのではなかったかと思い出し、
あわわと黄昏色に染まった足元を見回した隙をつき、
飴をぶつける一人を庇う目論みあってのこと、
油断して見せかけ、腕を捕らえられかけていた
残りの二人のお嬢様がたも、素早くその身を翻す。
それからそれから、

 「天誅っ!」

品のいい濃色のベロアのワンピースの、
手首を覆う白いカフスの陰へと仕込んであったらしい、
彼女にはお馴染みの得物、伸縮式の特殊警棒を
腕の一振りで手の中へと滑り出させ、そのままシャキンと引き伸ばし。
手前のおじさんの肩を強かに殴打してから、
軸足に重心を据えてのいい構えで戦闘態勢に入ったのが、
金の綿毛も愛らしい、フランス人形もかくやという痩躯の美少女ならば。

 「よくも顔を出せましたね、この宝石泥棒さんたちが。」

勝手知ったるホテルの内部ということか、
隠し扉をコツンと蹴っての戸口が開いた掃除用具入れから
久蔵お嬢様が取り出したT字ホウキを“はいな”と受け取ったのは。
さらさらの金髪を猫耳つきのカチューシャで押さえた
そりゃあ愛らしい装いを大きく裏切っての、
ともすれば婀娜なくらいに余裕の流し目で相手一行をさらりと見やり。
その向背では、
見事な手捌きでホウキの長い柄をぐるんぐりんと回して見せつつ、
こちらさんもまた歌舞伎の大見得のような堂に入った身構えを取った、
白皙の美少女さんだったものだから。

 「な、なんだ こいつら。」
 「こんな狭いところでそんなもん振り回しやがって。」

身動き取れなくなるぞと呆れた隙を衝かれてしまったのは、
やはりやはり不審なおじさんたちの側。
何も目眩ましや牽制のつもりで振り回した得物じゃあない、
こちとらだって荒ごとには慣れた身ゆえに、

 「こんのっ。」

改めて掴みかかって来た輩へと、
その手をぱしっと強くぶってから。
長いスカートを戦旗のようにばっさとひるがえしつつ、
立ち位置を鮮やかに入れ替えの。
まだ振り向き切らない相手の
無防備すぎる背を容赦なくがっつりと叩き伏せたり、

 「ぐがっ!」

そうかと思えば、
狭いと評されたのへもむっかりしたか。
自分から相手へ向かって踏み出した綿毛頭のお嬢様、
何と壁を蹴っての高々と飛び上がり、
余計な言いようをしたおじさんの肉付きのいい肩口を
そぉれと上段から叩きつける容赦のなさだったりもして。

 「ひぃえっ!」

最初に飴を投げ付けたお嬢さんも、
その飴に、音はしないが当たればびりりと不思議な衝撃が走る
静電気を帯びた特殊なかんしゃく玉を混ぜての
苛烈な豆まき攻撃をそぉれそぉれと続けており。

 「うわったったっ。」

お宝が交ざっているかもしれない飴の包みを無下にも出来ないか、
手を伸ばすも、そのたびに強烈な電撃が走るとあって、
かがんでは跳びはねる顔触れらを、少し後方から苦々しくも見回したのが、
恐らくは彼らの頭目格か。

 「ええい、いい加減にしておけよ、お嬢ちゃんたち。」

地べたから沸き上がるようなビリリとした低い声を放つと、
野太い眉をぎりりとしかめた、やや薹の立った兄貴分さん。
陽のあたらぬ場で暗躍して来たお立場にしては、
ようよう色づいた色黒なお顔が、
苦さにて渋さを増しての引きつっていはしたけれど、

 「あんたらがどういう立場の嬢ちゃんたちかまでは知らねぇが、
  さっき俺らを泥棒呼ばわりしたことといい、
  そうまでの抵抗をするところといい、
  俺らの目的のブツを持ってんのは確かなようだな。」

下手に騒げば人が集まると恐れてか、
さほど声は荒げぬところはいっそのおサスガ。
まだ冷静さは保ったままに、
そうと滔々と並べてのそれから、

 「簡単には渡さねぇつもりな様子だが、
  そうまでの義理立てをする必要があんのかな?」

 「………はい?」×@

あとほんの数分でも持ちこたえての、
このまま拮抗が続いて、何だ何だと人が集まればどうなるかも含め、
どっちが不利かは明らかだのに。
何を言い出したおじさんなのやらと、
それこそ不意を突かれた格好で 戦意が一瞬削がれたお嬢さんたちだったが、
相手の狙いはそんな些細なことでなはく。
作業着のポケットから取り出したのは、
今時には携帯している人も減りつつあるかもの、蓋つきの銀のライター。
カチンという乾いた金属音を立てさせて、
かぶさるような蓋をシングルアクションで弾き開けると、
歯車みたいな着火石をガリンと親指で押し回す。

 「例えば、此処でボヤが出たら…このホテルはどうなるね。」
 「…っ!」

男の武骨な手の中でオレンジ色の炎が立ち上がり、
彼の奥の手でもあるのだろうその炎は、
さながら万能の魔法の種ででもあるかのようで。
おじさんの態度へと微妙な熱を込めさせ…たのだが。

 「それがどうした。」

特殊警棒を振り回していた綿毛のお嬢様、
切れ上がった双眸をますますのこと鋭く研ぎ澄ますと、
丁度相手をしていた別のおじさんの
顎先を横薙ぎに ぶっての引っ繰り返したそのまんま、
エプロンドレスに包まれたお胸をむんと力強く張って見せ、

 「こっちはこうだ。」

ぴんっと親指で何かを弾き、
ぱしりと受け止めた“それ”を壁へと押し付けると、
警棒の柄の側の尻を大きく振りかぶっての言い放ったのが、

 「今 此処でこのダイヤを叩き割る。」

 「………………………あ"?」

しなやかなお指で品のいい壁紙の上へと押し付けられているのは、
確かに彼らが目当てにしていたダイヤモンドで。
利き手なのだろう右の手に逆手に握り直された特殊警棒は、
いざという時には、強化ガラスの窓などを
一点打破により打ち砕くための金具がはまっているらしく。
それでもって叩いて砕くぞと言いたいお嬢さんだったようだが、

 「おま、それって。」
 「馬鹿か? こいつ。」

強かに殴られたことさえ吹っ飛んでの惚けた次には、
何を言い出すかなと笑いさえ込み上げて来た盗賊団の一味の面々。
苦しげにお顔を引きつらせるのへと、

 「あらあら。馬鹿はそちらですことよ。」

愛らしい赤毛を小さなお手々で掻き上げながら、
もう投げる飴もないやと空になった籠をぽいっと放ったお嬢さんが、

 「確かにダイヤモンドは最強の硬度を誇る宝石ですが、
  例えば火事の中へと投じられては、
  灰になって燃え尽きてしまうってのは御存知ですよね?」

ある意味で専門家を相手にそんな話をし始めて、

 「何たって炭素ですものね。
  それと同じことで、
  一点集中で衝撃を加えられたら、
  ガラスと同じで砕け散ってしまうって事は御存知ないんですか?」

 「……………え"?」

久蔵殿の一振りを舐めてかかっちゃあいけません。
先程 強かに殴られて伸びちゃったお仲間もいたほどに、
これでも名うての剣豪なんですからね、と。
ひなげしさんが煽り立て、

 「さあ、そのライターをお渡し、下賎のおじさま。」

もはや引くしかありませんことよと、
威風堂々、真っ直ぐな視線で相手を射竦めんとする
ホウキ持ったままの白百合さんといい。

 “な、なんて上から目線の嬢ちゃんたちなんだ、こいつら。”

言ってることへの理屈は微妙に追いついてないけれど、
まるで物怖じしないままぐいぐいと押してくる態度の鷹揚さにこそ、
圧倒されかかっていた頭目さんであり。しかも、

 「言っておくが、これは此処で砕かれたら二度と戻らんぞ?」

火を点けるだと?
初期消火で何とでも消せるし、
評判が多少落ちても、
そんなもの じさまと両親とこの俺でいくらでも盛り返してやるわと。
やはり胸を張っての偉そうにしている、
但し、相手には伝わってないぞな紅ばらさんだったりし。

 「く……っ。」

何がなんだか、後半辺りはよく判らなくなりつつも、
異様な迫力をたたえたお嬢さんたちに見据えられ、
くうっと言葉に詰まった盗賊団の頭目殿だったのへ、

 「こやつら相手に、
  まともな問答を構えようというのが
  そもそもの間違いだ。」

明らかに気迫負けしていたゲジ眉の頭目の、
掲げていたその手から
ライターをひょいと取り上げた別の手が後方から登場し。

 「え? えっ?!」

今度は何だと、もはやびくつきかかって振り返った彼より早く、
相手の正体見定めたのが、やはりやはりお嬢様がたの方。

 「あら。」
 「お…。」
 「え? え? 何でですか?////////」

まだ110番してませんのに、どうして此処へ?と.
うろたえつつも頬を赤らめた白百合さんだったことが最大のヒント。


   さて此処で問題です。(おいおい)





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  *…………ええっと。
   長らく留守にしてました、すいません。
   ベッドを踏み台代わりにしていたら
   そこから足を踏み外して落ちるという、
   まんがみたいな事情で足首を折ってた粗忽者です。
   でもね、用心してても襲い来る交通事故も怖いですが、
   入院するよな大怪我というと、
   実は家庭内事故のほうが多いそうなので、
   皆様も“うっかり”には どうかご用心を。

  *このお話の続きというのも勿論気になっておりましたし、
   学園祭ネタも、いい夫婦の日も妻の日も クリスマスも、
   秋ならではな色々々を取りこぼしたのが口惜しい入院でもありまして。
   日頃の行い、そうまで悪かったのか 自分…。

   退院したばかりですし、何と言ってももう年の瀬、
   かつてのようなペースでの更新とはなかなか参りませんが、
   それでも頑張りますので、これからもどうかよろしくです。
   なんか年末か新年のご挨拶みたくなってしまいましたが、
   もちっと続く“ハロウィン騒動記”(とほほ…)
   よろしかったらお付き合い下さいませね?

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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